【岐路 バスと観光新たな関係】事業としての貸し切りバス10 成定竜一


岐路バスと観光新たな関係

 そう簡単にいかないのが2点目の方だ。特に、旅行会社が企画するバスツアー(募集型企画旅行)に参加する場合、旅行者は旅行会社に参加を申し込む。その際、貸し切りバス事業者名を気にする旅行者は多くはないだろう。

 そもそも募集型企画旅行の募集広告(パンフレットなど)や確定書面(最終日程表)において、バス事業者名の表示義務はない。「貸切バス」という表記で十分だ。バス以外、例えば航空会社、宿泊施設などは固有名詞で表示することが義務付けられているのと対照的だ。

 これは、業界特有の商習慣が関係している。貸し切りバスは、ほぼ全車の座席数が統一されており、実際に運行する事業者を容易に入れ替えることができる。

 直前のキャンセルに備えバス事業者があえて多めに予約を受けておき、あふれた予約は他社に再依頼するケースや、台数が多い予約の際、1社が窓口となり予約を受けた上で、運行は他社にも割り振っていくケースは多い。

 旅行会社がバスツアーを企画する時点では、実際に運行するバス事業者名が確定していないのだ。だから「運送機関 貸切バス」という表記で済ませられた方が、旅行会社にも貸し切りバス事業者にも都合がいい。

 だが、このままでは、貸し切りバス事業者にとって、安全性の確保に真面目に取り組み、安全性を含む品質を高める努力を重ねるインセンティブは生まれない。

 その点で、第三者的に事業者の安全性を評価する「貸切バス事業者安全性評価認定制度(セーフティバス)」の存在は有効だ。

 「利用予定 『セーフティバス一つ星』以上のバス会社」という表現で事業者属性の表示を義務化すれば、「代車」を手配する余地を残しつつ、事業者側にとっては、同制度の認定を積極的に取得するインセンティブが生まれる(「星付き」事業者を指定できない場合は「バス会社未定」という表現になろう)。「星付き」と書いた方が集客に寄与するわけだから、旅行会社が、あえて「星付き」事業者を指定するインセンティブも生まれるだろう。

 (高速バスマーケティング研究所代表)

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